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名古屋地方裁判所 昭和53年(ワ)654号 判決

原告 日本ハードボード工業株式会社

右代表者代表取締役 濱本晴市

右訴訟代理人弁護士 福岡宗也

同 水野敏明

同 小澤幹雄

被告 東洋テックス株式会社

右代表者代表取締役 塚田昭義

右訴訟代理人弁護士 近石勤

同 楠瀬輝夫

同 武田安紀彦

主文

一  被告は原告に対し、金一五〇万円及びこれに対する昭和五三年一〇月一日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを二〇分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決は第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一申立

(原告)

一  被告は、別紙イ号標章目録(一)記載の標章を、別紙商品目録(一)記載の商品及びそのダンボール箱、広告、包装、シール、宣伝用カタログ、注文書等の印刷物に使用し、またはこれを使用した別紙商品目録(一)記載の商品の製造、販売または頒布をしてはならない。

二  被告は、別紙イ号標章目録(二)、(三)記載の各標章を、別紙商品目録(二)記載の商品及びそのダンボール箱、広告、包装、シール、宣伝用カタログ、注文書等の印刷物に使用し、またはこれらを使用した別紙商品目録(二)記載の商品を製造、販売または頒布してはならない。

三  被告は原告に対し、金四、三八一万七、一七四円及びこれに対する昭和五三年一〇月一日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

四  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決ならびに三項につき仮執行の宣言。

(被告)

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決。

第二主張

(原告)

請求原因

一  原告は繊維板、建築材料、木工製品の製造、販売等を業とする会社であり、被告は建築資材の製造、販売等を業とする会社である。

二  原告は、別紙登録商標目録一ないし三記載の各登録商標(以下、「本件各商標」または「本件一ないし三の商標」という。)の商標権者である。

三1  被告は、昭和五二年四月頃から、本件一の商標の指定商品中の繊維板及び天井用音響吸収板に該当する別紙商品目録(一)記載の商品(以下、「本件(一)の商品」という。)を製造、販売するに当り、そのダンボール箱、広告、包装、シール、宣伝用カタログ、注文書等の印刷物に別紙イ号標章目録(一)記載の標章「花紋」(以下、「イ号(一)の標章」という。)を使用している。

2  被告は、本件二、三の各商標の指定商品中の木材に該当する別紙商品目録(二)記載の商品(以下、「本件(二)の商品」という。)を製造、販売するに当り、そのダンボール箱、広告、包装、シール、宣伝用カタログ、注文書等の印刷物に、昭和五一年六月頃から別紙イ号標章目録(二)記載の標章「オリオン」(以下、「イ号(二)の標章」という。)を、昭和五二年七月頃から別紙イ号標章目録(三)記載の標章「カペラ」(以下、「イ号(三)の標章」という。)を使用している。

四  イ号(一)ないし(三)の各標章は、本件一ないし三の各商標とそれぞれ外観、称呼、観念において全く同一である。

従って、被告のイ号(一)ないし(三)の各標章の前記使用行為は本件各商標権を侵害するものである。

なお、本件(一)及び(二)の商品等天井材の取引は、あらかじめ取引関係のある問屋、代理店、特約店、工務店などにカタログ、柄見本を配布し、施主が天井材を選ぶに当っては、それらカタログ、柄見本によって商品を特定するのである。その際の特定方法は本件各商標ないしイ号(一)ないし(三)の標章等の標章によって示される柄名をもってなされ、商品の流通過程においても、標章(柄名)が商品の特定及びその出所表示の機能を果すのである。従って、標章(柄名)が競合すれば、注文過程において商品が混同し、商品の出所についても混同を生ずることは明らかである。

五  被告の右侵害行為は過失によってなされたものと推定されるところ(なお、原告を債権者、被告を債務者とする当庁昭和五三年(ヨ)第一八八号仮処分事件の仮処分決定正本が被告代理人に送達された昭和五三年五月四日以降の被告の侵害行為は明らかに故意によるものである。)、原告が被告の侵害行為によって蒙った損害は金四、三八一万七、一七四円である。

すなわち、被告がイ号(一)ないし(三)の各標章を使用して本件(一)及び(二)の商品を販売することによって得た利益相当額が、原告の蒙った損害額と推定されるところ(商標法「以下「法」という。」三八条一項)、被告がイ号(一)ないし(三)の各標章を使用して本件(一)及び(二)の商品を販売することによって得た利益の明細は次のとおりである。

使用標章

販売商品

販売期間

販売数量

一個(坪)当りの利益額

利益額

イ号(一)

本件(一)の商品

自五二・一〇・一

至五三・九・末

一五、一四八坪

三〇八円

四六六万五、五八四円

イ号(二)

本件(二)の商品

自五一・四・一

至五三・四・末

八、〇七〇個

四、〇六三円

三、二七八万八、四一〇円

イ号(三)

本件(二)の商品

自五一・一二・一

至五三・八・末

一、五九〇個

四、〇〇二円

六三六万三、一八〇円

合計

四、三八一万七、一七四円

仮に、右推定が許されないとしても、原告は被告に対し、本件各商標の使用に対し通常受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を、損害の賠償として請求しうるところ(法三八条二項)、原告が本件各商標の実施許諾をした事例はないが、右通常受けるべき金銭の額は前記利益相当額を下らない。

六  よって、原告は被告に対し、本件各商標権に基づき、申立一、二項掲記の差止と、損害賠償金四、三八一万七、一七四円及びこれに対する本件不法行為後である昭和五三年一〇月一日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

(被告)

請求原因に対する認否

請求原因一、二の事実は認める。

同三の事実は否認する。

同四の事実は否認し、その主張は争う。

同五のうち、被告が、原告主張の各標章を使用した商品を、その主張の期間に、その数量を販売したことは認めるが、その余の事実は否認する。損害に関する主張は争う。

反論

一  商標の類否を判断するに際しては、その対象となる商品の取引上の実情を離れて、単にその商標それ自体の外見上の称呼や観念を比較して判断するのではなく、その商品が取扱われている業界の取引の実情を考慮すべきである(最判昭四三・二・二七、民集二二巻二号三九九頁)。

ところで、原告及び被告は、建築資材の製造、販売を業とする合板メーカーであり、国内における天井材、壁材の製造、販売においては、訴外大建工業株式会社を加えて、これら三社が業界の大手メーカーである。また、製品の購買者(取引者)は、通常特約店、代理店を通じての工務店、大工及び建築職人等の建築業に関係する専門家に限られているから、このような購買者にとって、「トーヨー」、「東洋」といえば、被告を表示することは業界周知の事実である。

従って、仮りに、被告の使用するイ号(一)ないし(三)の各標章それ自体の外見が本件各商標と称呼、観念において類似しているとしても、その使用の具体的態様を異にし、加えて前記の「トーヨー」、「東洋」等の表示が併せなされていれば総合的観察からすれば、同一性、類似性を欠くというべきである。

右の観点から本件をみるに、イ号(一)ないし(三)の各標章と本件各商標とは、次のとおり、全く同一性、類似性がない。

(一) 本件一の商標は「花紋」であるが、原告が実際に商品に使用している商標は「かもん」とひらがな文字で使用している。これに対し、イ号(一)の標章は「花紋」と漢字を使用しており、かつ「ほんざね」の文字の部分が「花紋」の部分に比較して格別に大きく、かつ両者の配置が離れていることなどからして、一般人の注意は「ほんざね」の部分に向けられることは明らかであり、他方原告の商品には、「ゴールデンスーパー」の文字が格別大きく付されていることからして、イ号(一)の標章は、本件一の商標と全く異なった外観を呈しているうえ、「東洋吸音板」の表示が付加されている。

右のとおりであって、イ号(一)の標章のため、被告の商品が、原告の商品と取引上誤認混同されるおそれは全くない。

(二) 本件二の商標は通常の天井材として一般の製品に使用されるのに対し、イ号(二)の標章は天井材のうちのシャンデリアの取付用の天井材にのみ使用され、両者の間には用途の違いがある。経験則からして、用途の異なる商品の場合、取引者、需要者に混同が生じることは通常ありえない。しかも両者の外観が著しく異なることは誰の目からみても明白であり、かつ被告の標章には「トーヨーセンターピース」の文字が付加され、商品の出所が表示されているからイ号(二)の標章のため、被告の商品が、原告の商品と取引上誤認混同されるおそれは全くない。

(三) 本件三の商標は原告において使用されていない。従って、出所の誤認混同のおそれの有無について具体的に検討する余地はないが、イ号(三)の標章には「トーヨーセンターピース」の文字が付加され、商品の出所が表示されているので、右商標とは類似性がない。

二  商標法が、商標権者に登録商標使用の独占的権利を付与している趣旨は、当該商品の出所表示機能を保護することにある。従って、ある商標が登録されていて、その商標が商品に表示されていたとしても、現実の取引界において登録商標本来の機能である出所表示機能がない商標については、仮に類似する標章が使用されたとしても、実質的に商標権の侵害はないと解すべきである。なぜならば、このような場合についてまで権利侵害を認めることは、理由なく権利者を過大に保護する弊害をもたらすとともに公正に競争秩序を乱すことになりかねないからである。

本件において、原告の製造、販売にかかる全商品に共通に表示されている商標は別紙(四)のとおりであり、原告は業界において右商標により、自己の営業にかかる商品を他者の商品と区別している。

従って、商標法によって保護されるべき商標は右の商標であり、本件各商標は原告商品の出所表示機能に関係のないものである。

すなわち、本件各商標は、原告が、その製造、販売する天井材、壁材に使用するため登録した数百の商標のうちの一部であって、これらの標章の現実の機能は、自己の商品を他者の商品と区別する「目じるし」ではなく、自己の製造、販売する多種多様の商品の一つを、自己の他の商品と区別し、整理するための「目じるし」に過ぎない。

右のとおり、本件各商標は、商標本来の出所表示機能を有しないので、被告が右商標に類似する標章を使用したとしても、実質的な商標権の侵害行為はないものというべきである。

三  本件各商標に出所表示機能があってこそ、被告が類似の標章を使用した場合に、被告の商品を原告の商品と誤認混同させる事態が生じ、その結果原告の商品の売行が落ち、あるいは被告が粗悪品を販売した場合に、原告の商品全体の信用が低下するなどの損害が生ずる場合がある。しかるに、前記のとおり、本件各商標には出所表示機能がなく、被告が類似した標章を使用したとしても、原告の商品と誤認混同を生ぜしめることはないのであるから、被告が類似の標章を使用する行為は、原告の営業利益に何らの影響を及ぼさず、原告に対し何らの損害を与えるものではない。さらに、本件各商標にいわゆるネーム・ヴァリューがあって、そのために原告の商品が売れているという状況はなく、被告としても、被告商品を原告商品と誤認混同せしめる意図も実益も全くなかった。被告商品が販売できたのは、被告商品の品質、価格、技術、意匠、販売政策、信用等によるものであって、その販売利益(通常販売価格の二パーセント程度が相当で、原告主張の一五パーセント以上は過大にすぎる。)もイ号(一)ないし(三)の各標章を使用した結果とみるべき部分は全くない。

以上のように、被告がイ号(一)ないし(三)の各標章を使用した行為と、被告の得た販売利益との間には因果関係がなく、また右標章の使用によって原告には何らの損害も生じていないのであるから、法三八条一項により被告の得た利益を原告の損害と推定する合理的根拠は全くない。

なお、原告は、本件三の商標を使用していないのであるから、法三八条一項の適用の余地がないことは明らかである。

また、法三八条二項によりその主張にかかる使用料相当額の損害賠償請求権を有するとする原告の主張も理由がない。

第三証拠《省略》

理由

一  原告は繊維板、建築材料、木工製品の製造、販売等を業とする会社であり、被告は建築資材の製造、販売等を業とする会社であること、原告が登録商標である本件各商標の商標権者であることは当事者間に争いがない。

二(一)  《証拠省略》を総合すると、被告は、本件(一)の商品を製造、販売するに当り、昭和五二年一〇月一日頃から昭和五三年九月末日頃までの間、右商品の柄名を表示するものとして、その包装箱にイ号(一)の標章「花紋」を付し、また本件(二)の商品を製造、販売するに当り、右商品の柄名を表示するものとして、昭和五一年四月一日頃から昭和五三年四月末日頃までの間イ号(二)の標章「オリオン」を、昭和五一年一二月一日頃から昭和五三年八月末日頃までの間イ号(三)の標章「カペラ」をそれぞれの包装箱に付し、また、被告は、本件(一)及び(二)の商品の販売宣伝用カタログにイ号(一)ないし(三)の各標章を表示するなどして右各標章を使用したことが認められる。

《証拠判断省略》

しかして、イ号(一)ないし(三)の各標章と本件一ないし三の各商標それ自体を対比すると、外観、称呼、観念においてそれぞれ同一であることが明らかであるところ、弁論の全趣旨によれば、本件(一)の商品は、本件一の商標の指定商品中の繊維板及び天井用音響吸収板に、本件(二)の商品は、本件二、三の各商標の指定商品中の木材にそれぞれ該当することは明らかであるから、被告のイ号(一)ないし(三)の各標章の使用は、被告においてこれを正当づける根拠の存しないかぎり法三六条にいう本件各商標権に対する侵害行為と認めるべきである。

(二)  被告は、「被告がイ号各標章を使用するときは、必ず業界において被告を意味することが周知である「トーヨー」、「東洋」などの文字で出所表示がされていること等のイ号各標章の具体的使用態様及び購買者が建築業に関する専門家に限られていることなどの特殊事情等」を理由に、イ号各標章と本件各商標との同一性、類似性を否定するけれども、同一性の存否のための対比は、登録商標とイ号標章それ自体の外観、称呼、観念についてなされれば足りるのであって、具体的使用態様や、取引界の特殊事情などは右のような対比によって同一性が認められない場合に類似性存否のための判断資料たりうるに止まると解するのが相当である。これに反する被告の主張は採用できない。

(三)  次に、被告は、「本件各商標は出所表示機能を有しないから、被告のイ号(一)ないし(三)の各標章の使用は、本件各商標権に対する侵害行為とはならない」旨主張するので考えるに、法二条一項によれば、「商標とは、文字、図形もしくは記号もしくはこれらの結合またはこれらと色彩との結合であって、業として商品を生産し、加工し、証明し、または譲渡するものがその商品について使用するものである。」と規定されているが、商標は本来自他商品識別の機能を果すことを目的とする標識であり、わが国の商標制度も商標のもつこの自他商品識別機能の維持保護を目的としていることは、法一条に規定する商標法の目的に照らし明らかというべきである。

そして、この商標の本来的機能である商品の識別力から、出所表示機能、品質保証機能、広告機能という経済的機能が派生するものと考えられる。

法三条、四条は、商標中右のような識別力を有するものであって、法律上保護に値する機能を有するものについての必要な基準を定め、かかる基準に該当するもののみが独占的排他的な権利を有する商標権として、その登録を受けることができる旨定めているのである。

ところで本件各商標が登録商標であることは前記のとおり当事者間に争いがないから、特段の事情なき限り、本件各商標は、商品の識別力を有し、前記登録基準に適合しているものと認むべきであるところ、本件全証拠によるも右特段の事情は認められない。

従って本件各商標は出所表示機能を有しない旨の被告の主張は採用できない。

(四)  以上のとおり、被告のイ号(一)ないし(三)の各標章の前記使用は、本件各商標権を侵害するものであるから、原告は法三六条所定の差止請求権を有するというべきであるが、《証拠省略》によれば、被告は昭和五三年八月一五日頃本件(一)の商品に使用していたイ号(一)の標章を「花林」に、本件(二)の商品に使用していたイ号(二)の標章を「オリンピア」に、イ号(三)の標章を「小熊」にそれぞれ変更し、同年一〇月以降はその製造、販売にかかる商品についてイ号(一)ないし(三)の各標章の使用を廃止し、将来も右各標章を使用する意図がないことが認められ、これに反する証拠はない。

そうとすると、原告の本訴請求のうち、被告に対し、イ号(一)ないし(三)の各標章の使用差止を求める部分(申立一、二項)は、差止請求権行使の対象が消滅したことになり、結局理由がないものというべきである。

三(一)  被告の本件各商標権に対する前記侵害行為は過失によるものと推定されるところ(法三九条、特許法一〇三条)、被告代表者塚田昭義本人尋問の結果中の、被告は原告が本件各商標権を有することを知らなかった旨の供述部分は措信し難く、他に右推定を覆し、被告が前記侵害行為につき無過失であったことを認めるに足る証拠はないから、被告は、前記侵害行為によって原告が蒙った損害を賠償する義務があるものというべきである。

ところで、原告は、法三八条一項の規定を援用して、被告がその侵害行為によって得た純利益の額が原告の損害額と推定されるべきである旨主張するので、その当否について検討する。

商標権の侵害に対する損害賠償請求権はいわゆる一般の不法行為に対する損害賠償請求権(民法七〇九条)であり、不法行為により蒙った損害の賠償を請求するには、損害の発生を主張・立証すべきものであること及び法三八条一項の規定の体裁からして、右規定は、商標権者が商標権の侵害によって蒙った損害の賠償を請求する場合に、その営業上の損害の額を立証することが困難であることに鑑み、商標権者の右負担を軽減することを目的とする規定であって、商標権者が蒙った損害の額を推定するにとどまり、商標権者は侵害行為によって当然に損害を蒙り、その損害額は侵害者が侵害行為によって得た利益額と同額であるとまで推定するものではないと解すべきである。

従って、商標権者が右規定の適用を受けるためには、自ら業として登録商標を使用しており、かつその商標権に対する侵害行為によって現に営業上の損害を蒙ったことを主張・立証する必要があるものというべきである。

(二)  本件において、《証拠省略》によれば、原告は、その商品を製造、販売するにつき、本件三の商標を登録以来今日に至るまで使用したことはないことが認められるから、これに対応するイ号(三)の標章については、法三八条一項の適用がないことは明らかである。

(三)  次に、被告のイ号(一)、(二)の各標章の使用により、原告が営業上の損害を蒙ったか否かについて判断するに、《証拠省略》によれば、わが国における天井材、壁材等の内装用新建材の大手メーカーは原告、被告及び訴外大建工業株式会社の三社であるが、右天井材等の取引は、主として、メーカーが取引系列を有する特約店や代理店に販売し、右特約店や代理店は最終的な需要者である施主の意向を受けた工務店や大工に販売するという形態であること、原、被告らが製造、販売する天井材等は多種類に及び、しかもその各種のものが多様な柄、模様にわけられているため、原、被告らは本件一、二の商標、イ号(一)、(二)の標章等各種の商標、標章を、各種別の商品の柄名を表示する愛称として使用していること、天井材等の購買者は、通常、宣伝用カタログもしくは見本品等により価格、柄、模様を知り、これを基にメーカー名と柄名を表示する愛称(商標、標章)とを示して取引していること、原告の商品の包装箱等には、右柄名(商標)とともに、原告製品であることを示す「ゴールデンスーパー」、「ゴールデンリビング」等の表示が中央部に太字で鮮明に記載されており、被告の商品の包装箱等には柄名(標章)とともに、被告製品であることを示す「トーヨーセンターピース」、「東洋吸音板ほんざね」(なお「ほんざね」とは天井材のはめこみの結合方法を指すものであって、右表示自体は別段商品の出所を示すものではない。)等の表示が原告と同様中央部に太字で鮮明に記載されていること、原告はその商品の柄名を示すものとして、現在約九八〇の登録商標を有しており(そのうち現に使用しているものは一割程度であって、その余はいわゆるストック商標である。)、訴外大建工業も同様に七〇〇ないし八〇〇の登録商標を有していること、被告は約一〇〇の標章を現に使用していること(但し、いずれも未登録)以上の各事実が認められ、これに反する証拠はない。

以上に認定した、本件一、二の商標及びイ号(一)、(二)の各標章使用の具体的態様及び取引界の実情に照らして考えると、イ号(一)、(二)の標章は本件一、二の各商標とそれぞれその外観、称呼、観念において同一であるとはいえ、被告のイ号(一)、(二)の各標章の使用により、原、被告の商品が、その流通過程において誤認混同されるおそれは、殆んどないといっても過言ではないと考えられる。《証拠判断省略》

してみると、被告のイ号(一)、(二)の標章使用により、原告が現実に営業上の損害を蒙ったと認めることは困難であるのみならず、被告が右標章を使用したために、原告の商品と誤認混同され、その結果営業上の利益をあげえたものとも認め難い。

従って、仮に被告が右各標章を使用しなかったならば、原告は、被告の利益額に相当する利益を取得したのであろうとは到底認められない。

右のとおりであって、法三八条一項の適用があるとする原告の前記主張は理由がない。

四  従って、原告は、被告の前記侵害行為による損害の賠償として、法三八条二項に基づき、本件一ないし三の各商標に対し通常受けるべき使用料に相当する額の金員を請求しうるにとどまるものというべきであるので、その額について考える。

被告がイ号(一)ないし(三)の各標章を使用して、製造、販売した本件(一)、(二)の商品の数量が請求原因五項掲記のとおりであることは当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば、その販売金額は合計金二億二、三一八万九、四〇〇円であることが認められる。

右事実に、前記認定の本件各商標及びイ号各標章の具体的使用態様及びその有する経済的機能の程度、天井材等の取引の実情、被告がイ号各標章を使用したことにより、原告が現実に営業上の損害を蒙ったと認めることは困難であること、一方、被告としても、イ号各標章を使用した結果営業上の利益をあげえたものとは認め難いこと、原告が本件各商標の実施許諾をした事例はないこと(この点は原告の自認するところである。)、ならびに、《証拠省略》により認められる、原告が本件各商標を取得するに要した登録料、手数料等の諸経費等を併せ考慮すると、本件各商標に対し通常受けるべき使用料額は、右販売金額のほぼ〇・七パーセント弱に当る金一五〇万円とするのが相当である。

五  以上の次第であるから、原告の本訴請求は、被告に対し、法三八条二項所定の使用料相当額の損害賠償金一五〇万円及びこれに対する前記侵害行為後である昭和五三年一〇月一日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で正当であるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九一条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松本武 裁判官 浜崎浩一 裁判官山川悦男は転任のため署名押印することができない。裁判長裁判官 松本武)

〈以下省略〉

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